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July 23, 2007

Falai

2007-07-22
イタリアン
ファライ(Falai)
☆☆☆
68 Clinton St.
(bet. Rivington & Stanton Sts.)
Manhattan, NY
212-253-1960

久しぶりの三ツ星に出会いました。
こいつはすごい。素晴らしい。
シェフはマウロ・ブッフォ(28)。
例の泣く子も黙るエル・ブリでスーシェフをやって、それからニューヨークに来てブーレイのテストキッチンで働いて、それから去年、チェルシーのKleeというところでスーシェフをして(このクリー、オーナー・シェフよりこのマウロの方が格段に美味かったんで、このページでは☆付かず論評せずのままでした)、そんでもって5月からこのクリントン・ストリートのファライにやってきたのです。

レストラン自体は40席ほどしかない細長い小さな作りです。いまは夏なのでパティオに出てゆったり食べられます。で、ウェイター、ウェイトレスが美男美女揃い。うふふ。
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実はこの日、2か月遅れの私の誕生日会という名目でマリアさんがシャトー・フィジアックの95年(!)を持ち込んでくれました。白も持ち込みで、こちらは前夜の食事帰りの散歩で見つけたトライベッカのワイン屋で買ったホワイト・ボルドー。こっちも40ドルでたいへんおいしうございました。おまけにお店からは私たち4人に最初にロゼのスプマンテ(セルジオ)をいただきました。ラズベリーの香りのするきれいなお酒です。

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マウロがおまかせでコースを作ってくれました。

アミューズはハーブ入りのヨーグルトチーズに手づくりのマラスキーノ・チェリーの半身を載っけて、そこに目の前でキュウリのスープを注ぎ入れてくれます。目にも鮮やかな夏の演出。そうして胃にも優しいでしょ。チェリーというアクセントが色でも味でも気が利いています。

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次に出てきたのが前菜です。
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ホワイトポレンタの面を軽くグリルしてその上にチキンレバーのパテが載っています。この組み合わせが絶妙です。ポレンタはあくまでも軽く優しく、レバーが攻め込んでくるのをふんわりと包み込んでくれます。下にはイタリアのなんとかという、マッシュルームのジュをベースにしたチャーヴィルやチャイブの入った、これもまた軽い軽いクリームソースと上等なオリーブオイル。横に並ぶのは杏茸(ジロール)ですね。ちょいとバルサミコも見えます。で、レバーパテにはちょっとシーソルトが振られていて、これが口の中でカリカリといいアクセントになるのですよ。食感の強弱、味覚の重層、つまり、音楽なんですね、いい料理ってのは。

次が最初のパスタ料理ですね。
で、これ。パスタレス・ラビオリ。つまりパスタの皮のないラビオリ。「ヌーディ・ラビオリ」ですって。裸のラビオリね。皮のない餃子って、さて、面白いねえ。
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具はリコッタとスピナッチ。で、そこにセージバターのソース。そんでミルクの泡。揚げたセージがちょこんと載っていて、まあ、定番と言えば定番、クラシックと言えばクラシックであるセージとバターとほうれん草とリコッタのラビオリが、こんなに違ったものになる。こういう発想、ちょっとエル・ブリ掠め取り、なのかしら。でお味はというと、これもまた微笑んでしまうくらいに美味いのです。塩の加減がじつにたおやか。リコッタやバターという食材なのに、ぜんぜん軽い。上手だなあ。さっきのにも入ってましたが、このラベンダー色の花はトウモロコシの花だそう。corn flowers だって。きれいです。

それで2つ目のパスタの料理。
これがダイナマイトでした。さっきの微笑みに対して、こちらは思わず黙ってしまった。それからしばらくして「うめえな、こいつぁ」と。
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何だと思います?
麺はまず、スモークしたパッパルデッレです。ひゅいー。
下には水牛のモッツァレラがトロトロになって敷かれてあります。
そこにちらっと見えるのはカツオ出汁のジェリーです。
コーン・フラワーとチャイブの小口切りがちょこっと混ざってる。
で、載っけたキャビアの塩味で食わせる。
食わせます、これが。なんというか、ニッポンジン、参りました、です。
滋味というんでしょうか。もう口中から胃臓の底まで下がっていく静かな波動。

パッパルデッレは、伸して切ったらすぐスモークするそうです。それで茹でる。生パスタなので茹で時間は1、2分でしょう。なのでスモーキーなフレーバーは水に抜けていったりしないらしい。で、この薫香が、出汁のうまみとキャビアの塩味と一つになって、それをモッツァレラがイタリアンとしてまとめあげる、ってなとこでしょうかね。出汁って、こういう使い方できるんだなあ。すごいなあ。

と思ってたら、次にチーズのリゾットが出てきました。
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これがまた、あーた、素晴らしい。
ウサギのロインとフィレのローストが載っていて、さらに心臓と肝臓も。この肉がまたうまいんだわ。よくこんな上等なウサギを見つけてくるなあ。じつにやさしい味で、心臓なんか、もう、いままで食ったいろんな心臓の中で一番しっとりとうまい。ナンマイダブナンマイダブ。
チーズリゾットがぐいっと正面から正攻法で来ます。で、隣にある粉はカカオです。
ほらね、わかるでしょ、これは赤ワインのための味付けなんだなあ。チョコレートと肉汁、そしてナッティなパルメジャーノ、すべてメルローたるフィジアックの味と呼応して、食べる、飲む、食べる、飲むが別次元へと登り詰めていくわけですわ。極楽です。

でさ、ここで終わればいいものを、まだ出してきます。
そうね、まだパスタだったもんね。やっと主菜になるわけですわ。

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お腹いっぱいなんですけど……。
でも、ひとくち食ってみて、うまいから食べちゃうんだなあ。ちっちゃいし、いっか。
シーバス(鱸)をポテトの薄切りでくるんでソテーしました。
下には白と緑のアスパラガス。そんでフェンネルの茎をくったりと茹でたの。
ソースはハックルベリー。うひひ。左下の粉は、フェンネル・ソルト。茴香の種子と塩を混ぜたやつですね。
ほら、鱸は半生です。こういうの、日本では出てこないんだよねえ。焼き魚はみんなぎっちり火を通している。刺身の国なのに、魚に火を通す時はレアというのもミディアムというのも、コンセプトからしてないんだね。試してみりゃいいのになあ。

はい、もうお腹いっぱい。

なのに、マウロはまだ肉が出てないって、出たじゃないの、ウサギ〜。
もういいよー。
ひー。

はいどーぞ!
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あはは。ラムですね。プラムの焼いたのとアーティチョークのソテーが真ん中に置いてあり、紫イモのピュレが敷いてありんす。カリカリの塩がまた。
で、残したかと言えば、ぺろっと食べちゃいました。あははははあ〜苦しい。

プレデザート。インテルメッツォ。
うんめええ〜。
これ、たいへんよろしい。お腹が洗われるよう。
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思い出す限り列挙すると、トマトとスイカのジュースのグラニテ、スイカのキューブ、キュウリのキューブ、セロリ、ベージルとミントのシロップ、あとこのオレンジ色のなんだっけ、これがセロリ? それときっとレモン(当てずっぽう)、うーん、それからなんか他のスパイスも? コリアンダー?

すごいあっさり、ほんのり甘〜く、シャカシャカと口溶けも最高。
こういうの、プレデザートでも、ともするともうちょっと甘みを抑えたバージョンでアミューズで最初に出て来てもいいね。なんか、いろいろとハーブや香辛料を忍ばせた、野菜と果物のタルタルみたいなんです。

も、いいから、と思ったら、はい、ちゃんとデザート。
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ハミングバードのチョコレートですって。
チョコレートソルベの胴体に、鳩煎餅みたいなメレンゲ煎餅の翼、つぶつぶはチョコレートクッキーです。で、輝く頭の部分は飴なの。なかに、蜂蜜とアニスみたいなシロップが入っていて、すごく薄いもんだから口に含むとパリッと割れてジュワッとシロップが出てくる。うほほ。

まだ来るか!
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じつに穏やかなザバイヨーネっぽいミルフィーユと、奥はハックルベリーのソルベ、オレンジ敷き。

はあ、満腹です。

で、ここは屋内でオープンキッチン。
地下に仕込み部屋があるんだが、キッチンは4畳くらいしかない。
作ってるのはこの3人。
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左からマウロ、アキさん、ライアン。
アキさんはフィレンツェで6年、名門エノテカ・ピンキオッリで働いてて去年からニューヨーク。

そういうわけで、三ツ星を付けましたが、ただし、これはね、いわゆる知り合いの、お仲間の、おもてなしだから、特別料理なのかもしれません(ってか、きっとそう)。でもそれを割り引いても才気あふれる料理だったのは確かです。気を入れてもこういうのは作れないシェフは五万といるのです。
ですんでもしメニューどおりに頼むとしても、こういう才能の作る料理はきっとポテンシャルを持っている料理であるはずです。ぜひお試しあれ。それでご意見をいただければ幸いです。

July 02, 2007

魯山人

2007-06-28
京懐石
魯山人(Rosanjin)
☆なし
141 Duane Street, NY, NY 10013
212-346-7999

論評に値しません。
でも、書いちゃうのは、鳴り物入りで登場した「本格京懐石料理の店」と騒がれているからです。
この店がトライベッカにできてNYタイムズでも紹介され(評価ではなく、紹介記事です)、あちこちでここの経営者が(韓国人で高校から日本で教育を受けた元商社マンのジュンジン・パークという人)「まだニューヨークに紹介されていない日本料理がたくさんあるのに、創作和食に走るのもどうかと思う。江戸前はこういう味、バッテラはこういう味という、かくあるべき味をめざしたい」と語っているのを聞いたら、これは食べてみなくちゃと思うのは当然でしょう。

でも、食べてみて、あきまへん。一部で、京都の「たん熊」で修行した料理人が作っているとされていたのですが、本当でしょうか。とても信じられません。このどうでもよさは、ミッドタウンで高級懐石を自称する「杉山」と双璧のどうでもよさです。

酒の取り揃えが少ない、ワインがない、ビールはサッポロの瓶だけ、というのは料理とは関係ないのでまあこの際は問わないことにします。
で、150ドルのコース。
さいしょからいけません。
先付けなんですが、お盆の上に3つ並びました。
なにもいわない。
そういや、日本ではなにも説明せずに出してくるなあ、と気づくまでに時間がかかりました。
訊けばよかったのか。でも……(あとでわかります)。

さて肝心の料理は、
右に、鱧の梅肉。鱧が死んでいます。くたっとして、海老を茹でて叩いたのかと思った。
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真ん中にトコブシかアワビの殻にその貝の切り身とホタテが入っていて、そうして、なにを思ったかマヨネーズベースのグラタンになっています。おいおい、どこの修学旅行の旅館料理だ? おまけにレンコン乾いちゃって硬いの。
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左側に葛豆腐。枝豆がぽろぽろと入ってたけど、なんだか味がおかしい。微妙に安い子供のお菓子の味がする。そんで酢も入ったつゆの味がきつい。
で、支配人らしき年配男性に「これは何ですか?」と(やっと)訊いてみることに。
すると、「水無月でございます」
はい、それはわかっております。三角に切って葛なら、これは6月の和菓子「水無月」に模した料理です。でも、私が訊いているのはどういう味が入っているかであって、名前ではない。
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このおじさん、ダメです。よくわかってない。
というのも次がお椀で、しかもまたまた同じく鱧が出てきたんですけど、出汁がとても燻香が強くて、ふつうは上品な本枯れ節を使うんですけれど「これは荒節ですか?」と訊いたら、この支配人、「ええ、うちはちゃんと出汁をひいております」。
そんな、訊いていることは違うでしょう。
しかも「うちは出汁を引いてる」って、そんなこと自慢してどうするのよ。
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おまけにこの鱧のデカいこと。それに、向うっかわに写ってるの、あれ、揚げ豆腐です。なんで? どうして揚げ豆腐なんかがお椀に入ってるの? わけわかりません。味のバランスが崩れるでしょうが。

向う付けのお刺身が次に出てきたんですが、この器、織部ですが、いい感じでした。熊本オイスターがおいしかったです。そんなけ。で、出汁醤油とたまりとが2つ用意されてるんだが、これも説明ないんで、アメリカ人はわからんと思いますよ。どれをどっちにつけて食べるのか。
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次はおしのぎなんでしょうか、お鮨でした。トロと穴子のどちらかを選んでほしいと言われました。
1貫、つまり2個くるなら、べつに一つ一つでもいいんじゃないのかしら?
でも穴子を頼みましたら、この穴子、詰めがしょっぱいのと、穴子がばさばさしてるの。うそだろ、おい、ってな味。おまけにガリをこんなふうに三角に畳んだら食べづらくてしょうがないじゃないの。一枚一枚剥けっていうわけ? それともガブリと? 私は後者をやりましたが、結構噛み切れないものなのですよ。はは。
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でさあ、次のがまた観光旅館料理。カレイ(だっけ?)の南蛮。酢の物ですな。下にはウニとなんか(忘れた)のソース。
うーん。なんじゃい、これ。居酒屋「力」(ミッドタウンの飲み屋です。リキと呼びます。まあまあうまいよ)あたりで出てくれば、お、酒が進むねえ、でいいのかもしれないけど。
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焼き物は鱒かな。手前はアスパラの湯葉巻き。周りに垂らしてあるのはバジル入りのオリーブオイル。
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そんで次がウナギですからね。
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最後のご飯は餅米。うえに鯛かなんかが載ってて、空豆? そんで一汁一菜。
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なんか、ご飯、丸まっててお握りみたい。懐石で餅米って出るのかなあ。寡聞にして知りませんでした。

デザートは写真撮るのもやめました。クリームブリュレかバニラアイスか。

この店は早晩、潰れると思います。
やれやれ。
わたしたち、この日、この店で出てきた料理のこと、ひと言もテーブルで話題にしませんでした。こんなに料理好きの面子がそろってたのに。可笑しいねえ。