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January 14, 2008

Bar Blanc

2008-01-11
フレンチ-アメリカン
Bar Blanc(バー・ブラン)
☆☆☆
142 W 10th St(ウエストヴィレッジ)
New York, NY
212-255-2330

ブノワで食わされたあのロースト・ポークのどうでもよさを、さらに際立たせてくれると書けばよいのかそれともそれを覆い尽くして癒してくれたと言えばよいのか、とても美味しいロースト・ポークに新年早々出遭いました。そうそう、これです、ロースト・ポークはこうでなければなりません。皮をわざと残してそこをカリカリカリッとさせ、そうして肉部分はやわらかなれど肉の食感を保ってしっとりと火が通っている。もう、こんなに穏やかに幸せな気分にさせてくれるお肉はありません。まあ、ご覧あれ。

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まず、皿に置いたお肉のたたずまいまでブノワのとは違います。これは重要。料理人が、いかに自分の作ったそれを大事に思っているか、それが表れるからです。客のためのプレゼンテーションというよりも先に、まず自分の作品にシェフ自身がどれほど傾注しているかということなのです。
ブノワのはこれです。比べてみて。

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その差は味のみならず歴然でしょ。

さて、2008年最初のレヴューはグリニッヂヴィレッジに1カ月前に開店したばかりの「バー・ブラン」です。「白いバー」という意味で、フロアを除いて内装は白で統一されています。1カ月前といっても、ここを作ったのは「Bouley」のシェフだったセザール・ラミレスと、メートルディのディディエ、セクレタリーだったピエール、そして業務法律顧問だったキウォン・スタンドンの4人です。レストランがどういうものであるかを知り尽くしている彼らのことですから、1カ月にしてすでにインスタント・トップレストランです。訪問した11日は金曜日で、いやいや、店内はじつにウエストヴィレッジらしい喧噪(私たちはバースペースのテーブル席でしたのでなおさら)に満たされ、じつにニューヨークでした。

私たちは5人でテイスティングメニューを頼みました。ですので、メニューにあるのとはポーションもアレンジメントも少し違うと思いますが、印象は掴めると思います。冒頭に紹介したのは5コースの中での最後の肉料理でしたのでそれは再度、最後に詳述するとして、まずはアミューズが2つ供されました。

ちっちゃなブリオーシュ。中にちょっとだけブリーが挟まってて、さらにトリュフオイルの香りです。こんなにちっこくて、でも口にしたとたん顔の筋肉がへなっとなります。
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これはちょっと甘酸っぱいビーツのジェリーとたおやかなクレームフレーシュのアイスクリーム。フルール・ド・セルがジェリーの上に掛かっています。なかなか洒落た陶のスプーンを見つけてきましたね。
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そうして最初の前菜が2種類のマグロの刺身と、フォワグラの蒸したのです。
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向こうっ側の2つがマグロ。手前がフォワグラ。マグロはメニューにあります。
右上のがポン酢と黒トリュフのドレッシング仕立て。これはみんなちょっと塩っぱいと言ってましたが、わたしは気にならず。
左上のは黒タマネギとイカ墨と味噌のソースに、上にゴボウのフライとマイクログリーンが載ってますね。
フォワグラは、これまた蒸してまるでアン肝のように軽く上品に仕上がっています。それを定番の果物のソース(リンゴ?)の上に置いて、さらにフルール・ド・セルでカリカリ食感を加えています。木の芽が裏返しなのはご愛嬌です。これは、ほんと、鮟肝もこうやってポン酢の代わりにべつの甘くて酸っぱい林檎やブドウで食べさせても面白いかもしれないですね。

ほんでもって、次のこれも美味しかったの。
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中央のはすごい軽い羊のリコッタチーズの上にローストしたウサギの肉をいろいろ成型してスライスしたのを敷いて、そんで上に載っているのはリ・ド・ヴォーです。茶色いソースはジュですね。右上にはウサギのレヴァーペースト(といってもものすごく滑らかでクリームたっぷりの絶品)。手前と奥のマイクログリーンに隠れているのはちっちゃなクリミニマッシュルームを甘酸っぱく漬けたもので、これがまたファッティな皿のアクセントとしてなかなか頭の良い配置です。
んで、うまいんだ、このコンビネーション。ウサギの肉のやさしさ。子牛の胸腺の火の加減。セザールって、こんなに肉料理が上手かったっけ? これはメニューでは前菜のところにSlow Roasted Rabbit and Sweetbread Saladとして表記されています。
いやいや、困ったなあ、こういう素敵なレストランがあちこちにできると、金がいくらあっても足りなくなります。

次は何? そうそう、これ。ホタテ。纏っているのはフィロ・ドー(薄いパイシートみたいなのです)、で、奥にエスカルゴが2つ隠れています。
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いやいや、こう振り返るとやっぱり美味かったんだなあ。どんどん味を思い出してしまってまた食べたくなってくる。メニューにもPan Seared Jumbo Scallopというのがありますが、これはエスカルゴも入ってるしソースも違うかもしれません。このスープっぽいソースの緑はたしかタラゴンです。エスカルゴにタラゴンが合うところからの即興かもしれません。ホタテのジュースがベースでしょうか、全体をなんとなくシトラスの風味とともにまとめあげています。

そんでもって、写真ではなんだかわからんが、低温調理のサーモンです。
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サーモンはとろとろほろほろです。その上にプレザーヴド・トマトを掛けて、そこにハーブのパスタのシートを載っけて、そこにさらに白ワインの泡のソースを覆いかぶせてるんですね。
これね、じつはわたし、いちばん面白いと思った。このジャム状にしたトマトが何とも味が濃くて、オレンジの味まで含んでいる。サーモンのオレンジソースは定番ですが、このトマトがめちゃくちゃ濃くて美味しいのです。でも、残念ながら塩っぱすぎたの。量で調節して、もっと少量にすればよかったのかもしれませんが、そのアンバランスによってトマトの濃さに占領されちゃった感。ウーム、残念。

そんで料理コースの最後は冒頭のポークです。
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メニューではMilk Fed Porceletとあります。乳飲み子の豚の仔っこ。うー、かわいそ。心して食させていただきましょう。というかほんと、こういうのを不味くするなら調理人は罪人です。
中央のがそのロースの部分ですね。脂身の部分まで付いているのが日本人の私にはうれしい。左側に、さらにその脂身を越えてカリカリの皮がちょっと剥がれているのが見えるでしょ? うひひ。
で、右奥のはバラ肉部分の角切り。その上から橋のように渡されているのはクラッカーの上にその豚の頬肉とかで作ったテリーヌをちょぼちょぼと並べているわけですね。
バラ肉部分は調理法が違うのか、もっとワイルドな味がしますが、とにかくこのロース部分が美味しい。しかも下に敷いているのが芽キャベツの賽の目切りの、なんというの? ちょっと甘酸っぱい感じのもので、これも豚肉にぴったりなんだ。ソースは2種類。肉汁にシナモンとスターアニス(八角)のと、オレンジのです。これがまた押し付けがましくなく、さりげなく肉の味を両脇から支えるのです。

というわけで、腹一杯になって、デザート。
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オヴンから出したての熱々のアーモンドケーキと、洋梨とマスカルポーネのソルベ。
そんなに甘くなくて美味しい。まあデザートメニューは驚くというのではなく、手堅くという構成です。
デザートを凝るのはやはりグランメゾンですから。ここはほんと、スペースといい造作といい、ご近所のしゃれたレストランという位置づけ。デザートで客を惹き付ける必要はないでしょう。

でも驚いたのが食事が終わって厨房に謝意を伝えに訪れた時です。(中央の笑顔の眼鏡がセザールです。あら、彼、腕にタトゥー、すごいな)
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10人以上が働いてるのです。この規模でこのクックの多さは贅沢なもんです。素晴らしい。

さて、初回の訪問はじつに満足の行くものでした。
Allen & Delancey のときにも書きましたが、ニューヨークはいま、第2次なんだか第3次なんだか、レストラン業界に新しい波が生まれています。一流どころで修行したシェフたちが続々と自分の店をオープンさせて、それがいずれもなかなかよい仕事を見せています。Allen & D はいま現在、もう予約の取れない人気店です。

そこでこのバー・ブランの参入です。
この日の料理はいずれも実に洗練されたもので、ブーレイの尾っぽをまだ引きずっているようにも感じました。というか、ブーレイがセザールの料理だったのですが。
私が今回、サーモンのトマトに惹かれたように、今後はもう少し尖る部分もあっていいのではないか。何せここはヴィレッジです。顧客層も若い。大人の味と同時に、食べると思わずニヤけてしまうような遊び心のある皿を見せても面白いと思います。

本日のテイスティング・メニュは1人90ドル。
ワインは50ドル前後でじゅうぶんに美味しいものがそろっています。
私たちはサンセール($48)から急に贅沢して2003 Chateau de Puligny Montrachet Puligny Montrachet Folatieres($148)、2002 gevrey chambertin sarl maurice chapuis($105)といただきました。

October 25, 2007

Fiamma

2007-10-24
イタリアン
Fiamma
☆☆
206 Spring St.
Manhattan, NY.
(212) 653-0100

ほんと、おいしいレストランってのはここNYでも東京でも、とみに増えてきましたね、最近。
このフィアンマもそうです。SOHOにあります。スプリング・ストリートと6番街の角に近く、タウンハウスを使ったレストランです。というか、構えや作りはもうグランメゾンですね。じつはここはマイケル・ホワイトというシェフがやっていてそれなりの評判を取っていたレストランです。それが9月にすべてリノベートして、新しいシェフ、ファビオ・トラボッキFabio Trabocchi がそれまでいたワシントンDCのタイソン・コーナーにあるリッツ・カールトンのレストラン「マエストロMaestro」からスタッフ共々ここに移ってきた、というものです。

このファビオさん、昨年のジェイムズ・ビアード・アワードで Best Mid-Atlantic Chef に選ばれた人。また、ソムリエはラトリエール・ドゥ・ジョエル・ロビュションNYから引き抜いた人。こうなると自然に期待も高まります。ちなみにジェイムズ・ビアード賞というのはアメリカ料理界のアカデミー賞みたいなもんです。

で、この日は友人のマリアさんの誕生日ということで(じつはそれを知ったのはデザートのころ。お誘いがあったのでひょこひょこ付いてったらそうだったわけで、不覚!)、行ってみましたよ。タウンハウスの一階はダイニングルームと奥がキッチンなんでしょうが、この日はダイニングルームは開けてませんでした。私たちはそれで2階に通されます。けっこう広いです。
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われわれに付いたのはなんだかアメリカ娘って感じのあんまり有り難みのないカジュアルなウェイトレスでしたが、ま、いいでしょう。6コース120ドルのシェフズメニュー、そしてワインペアリング70ドル。ワインはみんなうまかった。いずれにしてもちょっと値段設定が高めです。でもカトラリーもお皿類も新調して、カネかかったんだろうなあ。

具体的に一品一品を検証する前に、いま、印象を記すと、おいしかった、でも、天才ではない、というものでした。

最初においしいレストランが増えているというふうに書きましたが、ほんと、そうなのです。おいしい。でも、こういうのを食べれば食べるほど、その中に天才というのはやはりなかなかいるもんじゃないんだなあって、いつも改めて感じるのです。おいしい食事をすればするほど天才の少なさを思い知るって、なんと不幸な食べ方でしょう。

で、天才とは何か? これがわからん。
天才は、会ってみないとわからない。
私のような常人には予測がつきません。
出会ってみて、おお、これが天才だ、としかわからんのです。
それが厄介です。

さて、ファビオ・トラボッキの名前からわかるようにイタリアンです。でも、このレベルになるともうフレンチと融合してます。
でも、最初に出てきたパンとバターがおいしかった。このバター、ヤギのミルクから作ったバターですって。脂肪分が多い。ちょっと黄色くて、酸化したバターみたいに(たとえが悪い)透き通ってます。で、口に含むとたしかに違う。でも、いちばん分かるのはそこにワインを飲んだときです。たちまち口の中がヤギのチーズで知ったあの独特の香気に浸ります。これはうれしいです。

アミューズは(イタリア語じゃないですけど)、タラとロブスターの身の上にタラのミルクの泡、と言ってましたが、つまりタラの白子でしょうね、それをエスプーマで泡あわにして、というおなじみの手法です。酸味とオリーブオイルの利いたタラとロブスターを、パセリとチャイブがアクセントにした軽い泡が包み込んで、なかなか鮮やかな出だしです。おいしいです。
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そして最初がこれ。
Il Granchio
Maryland Blue Crab, Spiced Eggplant, Fennel
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じつに肉感的なメリーランド産のブルークラブを薄切りにしてソテーした茄子でくるんで、そこにフェンネルのソース・ピュレです。ちょっとピリッとするのはピンクペッパーでしょうか? それともピメントの辛さかな? そんな味にチャービルの青みが加わって、これも悪くありません。いいじゃん、いいじゃん、って感じでコースが始まりました。

そうしてリードヴォーが来ました。
わたし、リードヴォー大好き。で、これまで食ったリードヴォーでいちばんおいしいと思ったのは、じつは25年前に群馬県高崎市の(しかしどうしてそんなところに行って、そんなところに入ったのか忘れたんですが、たしかなのは水戸支局時代だったということですね)、駅に近いビルの2階にあったフレンチレストラン(だれといっしょだったんだろう、それも忘れた。ひょっとすると1人だったかも)。そこで、ありゃ、たんに焦がしバターのソースだったのかもしれないけど、そのころはほら、きっとそういうもん食ったの初めてだったからうまかったのかしら? でも、リードヴォーは知っていて、そんで頼んだんだよね、そしてそれがほんとうまかったんだ。いいねえ、過去の記憶というのは。
前置きが長い。

Le Animelle

Roasted Veal Sweetbreads, Ovoli Mushrooms, Alba
Hazlenuts
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これはね、下にローストしたヘーゼルナッツがあるんです。その他はワイルドマッシュルーム。
でね、驚いたことに、上に載ってる白いスライス、これ、何だと思います? 松茸なんですよ、というか、松茸の味がするの。それで、え、イタリアでも松茸があるの?って訊いたら、シェフに訊いてきてくれて、これは「Ovoli」というんだって言うのよ。で、帰ってきてから調べましたよ。でも、オヴォリって、ネットに出てるのはちょっと違うような。OVOというのはイタリア語で卵っていう意味らしく、そのキノコ、卵みたいな形なんだって。「卵茸」? そんで、傘がつるんと茶色い。そしたら、オヴォリってじゃあこの下に敷いてある茶色くてちっちゃなキノコのほうじゃないのかしら? これ、ほら、ナメコみたいな、でもヌルヌルしてない、うーんと、茶色いエノキダケみたいなのあるでしょ、そっちのほうかなあ? 帰るときにシェフに会って、あれ、松茸だよねってもいっかい訊いたら「そうそう、松茸と似てるんだ」って言ったけど、どうなんでしょう? けっきょくこの日は判断つかずです。
(だって、ほら、これがオヴォリ(卵茸)の拾い画像ですもん。ちがうよねえ)
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で、そうそう、味は、大変よろしうございました。生の松茸(ということにします)、こうやってスライスして、小麦粉はたいてソテーしたチキンとか淡白な肉に載せてもおいしいかも。これはシンプルにオリーブオイルと塩とマッシュルームのジュで攻めています。イタリアンですねー。ヘーゼルナッツも合うの。グッジョブです。

次にリゾットでした。
Il Risotto
Organic Risotto, Pears, Grappa, Castelrosso Cheese
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なんと、梨とグラッパとチーズのリゾット。
うーん、甘くてしょっぱい。不味くはない。うまい。でもけっこうきつい。この量だから食べられるけど、これ以上だと無理。梨はソテーしてるのと、ちっちゃな生のダイス状のを最後に振りかけてるので食感にアクセントあり。茶色いのはグラッパじゃないだろうから、なんなんだろ。これにムスカデみたいな白ワインを合わせていたんですが、ペアリングとしてはそれじゃなお濃くなりすぎて、わたしとしてはその前のやや苦みのあるドライなワインが合いました。

そうしてお肉はキジでした。それにフォワグラ。ハックルベリーソース。下の棒状の野菜はパースニップ。パンチェッタは、どこにあったんだろう?
Il Faigiano
Roasted Wild Scottish Pheasant, Parsnips, Pancetta,
Huckleberry Sauce
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思い描くとおりの味です。それ以上でもそれ以下でもない。キジはしっとりと、これは真空低温調理ですね。


最後はチーズとイチジクとトーストしたアーモンド。
La Robiola
Robiola La Rossa, Figs, Toasted Almonds
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デザートは、もうこの辺になると酔っぱらっちゃったんですね、あんまりおぼえてない。ほら、写真撮る前に一口食べちゃってるし。はは。まあ、ふつうでした。
Il Cioccolato
Amedei Chocolate Torta Caprese, Fiore di Latt
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でも、この後に出てきたプチフール代わりのこれ、これがうまかった。手前のスプーンに載ってるやつ。
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これね、さっきと同じ梨なんですが、梨のゼリーね、その丸い中に、上等のオリーブオイルが入ってるのよ。これ、うまいわ。オリーブオイルって、甘いのにも合うんだねえ。すごいなあ。

ということで、けっこう腹一杯になりました。ワインも堪能。

これがシェフです。どっかのレヴューにmovie-star handsomeって書いてあったけど、ふうん、そんなにハンサムかしらって思いましたです。
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結論。
うまかった。でも、驚かなかった。
つまり、「まいったね」というのはありませんでした。
それに、ちょっと値づけが強気すぎるような気がします。いくらマンハッタン、家賃が高くても、SOHOですしね、120ドルのコースはやっぱり90ドルでしょう、これは。ワインも60ドルだなあ。
まあね、リッツ・カールトンだからねえ。

ザガットではきっと26点くらいは取ると思います。

July 23, 2007

Falai

2007-07-22
イタリアン
ファライ(Falai)
☆☆☆
68 Clinton St.
(bet. Rivington & Stanton Sts.)
Manhattan, NY
212-253-1960

久しぶりの三ツ星に出会いました。
こいつはすごい。素晴らしい。
シェフはマウロ・ブッフォ(28)。
例の泣く子も黙るエル・ブリでスーシェフをやって、それからニューヨークに来てブーレイのテストキッチンで働いて、それから去年、チェルシーのKleeというところでスーシェフをして(このクリー、オーナー・シェフよりこのマウロの方が格段に美味かったんで、このページでは☆付かず論評せずのままでした)、そんでもって5月からこのクリントン・ストリートのファライにやってきたのです。

レストラン自体は40席ほどしかない細長い小さな作りです。いまは夏なのでパティオに出てゆったり食べられます。で、ウェイター、ウェイトレスが美男美女揃い。うふふ。
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実はこの日、2か月遅れの私の誕生日会という名目でマリアさんがシャトー・フィジアックの95年(!)を持ち込んでくれました。白も持ち込みで、こちらは前夜の食事帰りの散歩で見つけたトライベッカのワイン屋で買ったホワイト・ボルドー。こっちも40ドルでたいへんおいしうございました。おまけにお店からは私たち4人に最初にロゼのスプマンテ(セルジオ)をいただきました。ラズベリーの香りのするきれいなお酒です。

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マウロがおまかせでコースを作ってくれました。

アミューズはハーブ入りのヨーグルトチーズに手づくりのマラスキーノ・チェリーの半身を載っけて、そこに目の前でキュウリのスープを注ぎ入れてくれます。目にも鮮やかな夏の演出。そうして胃にも優しいでしょ。チェリーというアクセントが色でも味でも気が利いています。

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次に出てきたのが前菜です。
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ホワイトポレンタの面を軽くグリルしてその上にチキンレバーのパテが載っています。この組み合わせが絶妙です。ポレンタはあくまでも軽く優しく、レバーが攻め込んでくるのをふんわりと包み込んでくれます。下にはイタリアのなんとかという、マッシュルームのジュをベースにしたチャーヴィルやチャイブの入った、これもまた軽い軽いクリームソースと上等なオリーブオイル。横に並ぶのは杏茸(ジロール)ですね。ちょいとバルサミコも見えます。で、レバーパテにはちょっとシーソルトが振られていて、これが口の中でカリカリといいアクセントになるのですよ。食感の強弱、味覚の重層、つまり、音楽なんですね、いい料理ってのは。

次が最初のパスタ料理ですね。
で、これ。パスタレス・ラビオリ。つまりパスタの皮のないラビオリ。「ヌーディ・ラビオリ」ですって。裸のラビオリね。皮のない餃子って、さて、面白いねえ。
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具はリコッタとスピナッチ。で、そこにセージバターのソース。そんでミルクの泡。揚げたセージがちょこんと載っていて、まあ、定番と言えば定番、クラシックと言えばクラシックであるセージとバターとほうれん草とリコッタのラビオリが、こんなに違ったものになる。こういう発想、ちょっとエル・ブリ掠め取り、なのかしら。でお味はというと、これもまた微笑んでしまうくらいに美味いのです。塩の加減がじつにたおやか。リコッタやバターという食材なのに、ぜんぜん軽い。上手だなあ。さっきのにも入ってましたが、このラベンダー色の花はトウモロコシの花だそう。corn flowers だって。きれいです。

それで2つ目のパスタの料理。
これがダイナマイトでした。さっきの微笑みに対して、こちらは思わず黙ってしまった。それからしばらくして「うめえな、こいつぁ」と。
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何だと思います?
麺はまず、スモークしたパッパルデッレです。ひゅいー。
下には水牛のモッツァレラがトロトロになって敷かれてあります。
そこにちらっと見えるのはカツオ出汁のジェリーです。
コーン・フラワーとチャイブの小口切りがちょこっと混ざってる。
で、載っけたキャビアの塩味で食わせる。
食わせます、これが。なんというか、ニッポンジン、参りました、です。
滋味というんでしょうか。もう口中から胃臓の底まで下がっていく静かな波動。

パッパルデッレは、伸して切ったらすぐスモークするそうです。それで茹でる。生パスタなので茹で時間は1、2分でしょう。なのでスモーキーなフレーバーは水に抜けていったりしないらしい。で、この薫香が、出汁のうまみとキャビアの塩味と一つになって、それをモッツァレラがイタリアンとしてまとめあげる、ってなとこでしょうかね。出汁って、こういう使い方できるんだなあ。すごいなあ。

と思ってたら、次にチーズのリゾットが出てきました。
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これがまた、あーた、素晴らしい。
ウサギのロインとフィレのローストが載っていて、さらに心臓と肝臓も。この肉がまたうまいんだわ。よくこんな上等なウサギを見つけてくるなあ。じつにやさしい味で、心臓なんか、もう、いままで食ったいろんな心臓の中で一番しっとりとうまい。ナンマイダブナンマイダブ。
チーズリゾットがぐいっと正面から正攻法で来ます。で、隣にある粉はカカオです。
ほらね、わかるでしょ、これは赤ワインのための味付けなんだなあ。チョコレートと肉汁、そしてナッティなパルメジャーノ、すべてメルローたるフィジアックの味と呼応して、食べる、飲む、食べる、飲むが別次元へと登り詰めていくわけですわ。極楽です。

でさ、ここで終わればいいものを、まだ出してきます。
そうね、まだパスタだったもんね。やっと主菜になるわけですわ。

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お腹いっぱいなんですけど……。
でも、ひとくち食ってみて、うまいから食べちゃうんだなあ。ちっちゃいし、いっか。
シーバス(鱸)をポテトの薄切りでくるんでソテーしました。
下には白と緑のアスパラガス。そんでフェンネルの茎をくったりと茹でたの。
ソースはハックルベリー。うひひ。左下の粉は、フェンネル・ソルト。茴香の種子と塩を混ぜたやつですね。
ほら、鱸は半生です。こういうの、日本では出てこないんだよねえ。焼き魚はみんなぎっちり火を通している。刺身の国なのに、魚に火を通す時はレアというのもミディアムというのも、コンセプトからしてないんだね。試してみりゃいいのになあ。

はい、もうお腹いっぱい。

なのに、マウロはまだ肉が出てないって、出たじゃないの、ウサギ〜。
もういいよー。
ひー。

はいどーぞ!
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あはは。ラムですね。プラムの焼いたのとアーティチョークのソテーが真ん中に置いてあり、紫イモのピュレが敷いてありんす。カリカリの塩がまた。
で、残したかと言えば、ぺろっと食べちゃいました。あははははあ〜苦しい。

プレデザート。インテルメッツォ。
うんめええ〜。
これ、たいへんよろしい。お腹が洗われるよう。
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思い出す限り列挙すると、トマトとスイカのジュースのグラニテ、スイカのキューブ、キュウリのキューブ、セロリ、ベージルとミントのシロップ、あとこのオレンジ色のなんだっけ、これがセロリ? それときっとレモン(当てずっぽう)、うーん、それからなんか他のスパイスも? コリアンダー?

すごいあっさり、ほんのり甘〜く、シャカシャカと口溶けも最高。
こういうの、プレデザートでも、ともするともうちょっと甘みを抑えたバージョンでアミューズで最初に出て来てもいいね。なんか、いろいろとハーブや香辛料を忍ばせた、野菜と果物のタルタルみたいなんです。

も、いいから、と思ったら、はい、ちゃんとデザート。
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ハミングバードのチョコレートですって。
チョコレートソルベの胴体に、鳩煎餅みたいなメレンゲ煎餅の翼、つぶつぶはチョコレートクッキーです。で、輝く頭の部分は飴なの。なかに、蜂蜜とアニスみたいなシロップが入っていて、すごく薄いもんだから口に含むとパリッと割れてジュワッとシロップが出てくる。うほほ。

まだ来るか!
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じつに穏やかなザバイヨーネっぽいミルフィーユと、奥はハックルベリーのソルベ、オレンジ敷き。

はあ、満腹です。

で、ここは屋内でオープンキッチン。
地下に仕込み部屋があるんだが、キッチンは4畳くらいしかない。
作ってるのはこの3人。
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左からマウロ、アキさん、ライアン。
アキさんはフィレンツェで6年、名門エノテカ・ピンキオッリで働いてて去年からニューヨーク。

そういうわけで、三ツ星を付けましたが、ただし、これはね、いわゆる知り合いの、お仲間の、おもてなしだから、特別料理なのかもしれません(ってか、きっとそう)。でもそれを割り引いても才気あふれる料理だったのは確かです。気を入れてもこういうのは作れないシェフは五万といるのです。
ですんでもしメニューどおりに頼むとしても、こういう才能の作る料理はきっとポテンシャルを持っている料理であるはずです。ぜひお試しあれ。それでご意見をいただければ幸いです。

June 15, 2007

Del Posto

2007-06-14
イタリアン
Del Posto(デル・ポスト)
☆☆
85 10th Avenue, NY., NY. (btwn/ 14th & 15th St.)
1-212-497-8090

May 29, 2007

ピノ・サリーチェ

2007-05-28
イタリアン
ピノ・サリーチェ(circolo ITALIA Pino Salice)

東京都渋谷区鶯谷町15-10 ロイヤルパレス102
03-3496-3555

February 26, 2007

Ristorante MASSA

07-02-17
イタリアン
リストランテ・マッサ
☆☆
東京都渋谷区恵比寿1-23-22
03-5793-3175

NYの伸ちゃんが東京に出てきたので2人でお昼をしようと、この日は彼の選んだ店にランチに。で、わかったのがここがあの「イタリアンの鉄人」神戸勝彦の店だったということです。恵比寿の駅からちょっと行ったところに、こじんまりと、席数わずか30足らずじゃないでしょうか。でも清潔な四角いデザインで、テーブルもゆったり。
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ランチは4200円のコース。それにワインペアリング3700円。おいおい、これってかなり安いかも。だって、アペリティフの自家製のリモンチェッロのソーダ割りから始まるんです(まあ、このリモンチェッロの味は普通でしたが)。ところがアミューズを出されてにんまりしました。
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巻いてあるのは生ハムですよね。で、何を巻いているのかというと、これ、自家製の干し芋なんです。そんなに乾燥させていない、しっとり感の残る干し芋をキューブに切って、そこに生ハムを巻く。面白いじゃありませんか。で、きちんと美味しい。生ハムも干し芋も互いに美味しくなる。これは期待できる出だしです。

次に伸ちゃんは前菜の盛り合わせを頼みました。
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手前から時計回りでワカサギの南蛮漬け(イタリア語で言われたけど忘れました)、チーズポレンタに雲丹を載せてトーチしたもの、赤ワインでマリネした鮟肝にスダチのジュレを載せたもの、スプーンに載った海鼠の三杯酢みたいな和え物、カワハギの紫蘇の香りのマリネ、中央の赤いのはカポナータです。

ぼくは平目のカルパッチョです。
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これね、掛けてあるオリーブオイルに梅酒の梅を刻んだものが混ぜてあるのです。で、その梅がオリーブオイルのフルーティーさと相まって、とてもよいの。こういう使い方もあるのね。いいじゃな〜い?

でさ、次はパスタが2つ続く。
第1のパスタは、伸ちゃんが白魚と菜の花、私がタラの白子とマッシュルーム。パスタはいずれもキターラ。うどんみたいなもちもちの食感。これも美味しいじゃないの、ちょっとぉ〜。

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第2のパスタは、私が京芋のニョッキで、タケノコの入ったタレッチオチーズのソースに黒トリュフをかけたもの(たしかトリュフ代で500円ほど上乗せかしら?)。
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伸ちゃんは平貝とインゲン、蕗の薹のピュレや青唐辛子のソースのトロフィエ。手でひねった短めのパスタですね。
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これは私のほうがうまかったけど。いや、上質ですよ、ここは。

メインは私は真鯛と聖護院かぶらのグリルに寒じめ法蓮草という、京都のこれまた香り高い法蓮草を載せたもの。オレガノのピュレのオイルがアクセント。真鯛は焼き具合もたいへんよろし。

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伸ちゃんはエゾシカのグリル。白インゲンのサラダを敷いてバルサミコのソース。葉セロリを渡してありました。で、フォワグラのソテーを追加してましたね。

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デザートはこれ。
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フィンランドのアラビア社の青いお皿に、紅茶のジェリー、アーモンド・アイスクリーム、そしてグレープフルーツなんかが載っていて、ピンクの粉はフリーズドライのイチゴのパウダーですわ。

なんだか出てきたものを羅列しただけになってしまいましたが、わたし、ここ、嫌いじゃありません。
素材の取り合わせ、組み立て、いちいちが納得します。サービスがちょっとぎこちなかったりしますが、夜はきちんとしているのかもしれません。でも、このランチコースでワインも合わせて結構飲んで、それで8000円、つまり70ドルしないって、こりゃ素晴らしいわ。
いつか夜に再訪したいものです。

September 06, 2006

テルツィーナ

2006-9-5
Ristorante Terzina
リストランテ テルツィーナ
☆☆☆

札幌市中央区南2条西1丁目 アスカビル2F
TEL 011- 242-0808

このレストランは、わたしが札幌でいちばん気に入っている店です。2003年の夏に見つけて、毎年帰るたびに訪れるようにしています。料理、接客、いずれもとても素晴らしい。ただの料理でもない。驚きもひらめきもちゃんと刷り込ませてある。うふふ、と思わず笑いが漏れることもある。しかして接客はあくまで軽やかに丁寧で……そう、だれを連れて行っても恥ずかしくありません。こういう店は札幌でなかなか難しいと思います。東京にあったら東京でも行く、ニューヨークにあったらニューヨークでもひんぱんに出向く、そういう店です。

で、この日はわたしは毋と母方の叔父夫妻の4人で、1人10500円のディナーコースを頼みました。

焼き茄子とアンチョビ
ガスパチョとデラウェア
生ハムとその日のソルベ
カリフラワーのババロア ブロッコリーのソース キャビアのせ
函館産アワビとミョウガの冷製カッペリーニ たまり醤油のジュレ添え
歯舞産活〆柳の舞と冬瓜のブロデット
イベリコ豚ホホ肉のグリーリア 色々お野菜とポルチーニ茸、イベリコチョリソーのカポナータを添えて
みやこ南瓜とパルミジャーノチーズのリゾット サマートリュフをたっぷりとかけて
北アカリ・無花果・ゴルゴンゾーラ
季節のフルーツとティラミス
プラムのソルベとフロマージュブランのムース ヴィンコットのカプチーノ
コーヒー

この感動をすこしでも伝えたいと皿ごとに料理の写真を撮ったのですが、じつはその写真、携帯電話のカメラでして、その携帯からどうやって取り出してよいのかわからんのです。はは。すんまそ。

で、料理は食べていただくしかない。コースは5000円、7000円もあります。アラカルトはパスタが1600円くらいから、肉や魚は2000円台からあります。どれを取っても大丈夫です。私が保証します。

それで今回、シェフのお名前を確認しようとメールを出したら、支配人の安住正弘さんから次のようなメールをいただきました。
「名前は小川 智司(さとし)と申します。リストランテ・テルツィーナ開業(2002年)からのスタッフです。
オープン当初はグランシェフの堀川がおりましたので、シェフではありませんでしたが1年間でメキメキと頭角を現し、他の先輩達を差し置いて23歳でシェフに大抜擢されました。(現在26歳)、今では完全にリストランテ・テルツィーナの料理をまかされております。」

26歳ですよ!
そうなんです。才能のある料理人は20歳そこそこから活躍します。世界的なシェフで26歳で開眼していなかったやつはいません。小川さん、これは期待できます。コースからなにか強弱のメロディーが流れているのです。それはたしかに彼の唄なんだろうなあと思わせるような波形です。

でも、今回、ちょっと量が少なかったよ〜(笑)。
冷製カッペリーニ、具がアワビと高価だったせいもあるかもしれないけど、ありゃあドンブリいっぱい喰いたいぞ!(って無理な注文)。ミョウガと醤油のジュレだなんて、もうしっかりトレンドも押さえてるしぃ……。

あとガスパチョとデラウェアの組み合わせはよかった。これも量が少なかったけど。
生ハムはそんでもってソルベの上にのっかるんじゃなくて、ソルベの入ったデミタスの縁と縁に蓋のように渡してある、その盛りつけのひねり。いいねえ。
カリフラワーのババロア ブロッコリーのソース キャビアのせ、ってのはこれまた優しい味で、攻めも守りも両方できるというその幅の広さを感じさせる逸品。じつはその10日前のブーレイのロワールでの結婚式の正餐で、スーシェフのセザールがカリフラワーのクリームソースを柚子果汁を塗った生の手長エビに合わせていたんだけど、そのソースと同じ味のバランスでした。おみごと。

柳の舞も、スープ仕立てのブロデットだもんねえ。サフラン風味でこれも技あり。

イベリコ豚のグリルも、切り身3枚じゃ足りなかったよー(ってまるでだだっ子状態ですな)。
リゾットもぐいっと攻めの味にトリュフですからねえ、くー、うまかった(大スプーン3杯くらいだったけど、ってしつこい!)。

そういうわけで、札幌はこの店で救われています。(でも、コートドールとかのフレンチも行ってないんで、ほんとはそう語るには早すぎるかも。一度4年前に行ったモリエールは明確に期待はずれでしたけどね)