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May 08, 2007

Degustation

2007-05-04
フレンチ・タパス(スペインの小皿料理)?
Degustation(デギュスタシオン)

239 E. 5th St. (bet. 2nd & 3rd Aves.)
NY., NY., 10003
TEL 212-979-1012

去年の10月以来の再訪です。やっぱりここは面白いし美味しいし、はてさて、☆ではありながら、この直前のエントリーである☆☆のジャン・ジョルジュよりも褒めた書き方になるのはどうしてでしょうかね。まあ、判官贔屓かしら?

だって、見てください、このキャパですよ。厨房もなにも、オープンキッチンはコの字型のカウンター19席に囲まれたこのスペースだけ。逃げも隠れも出来ません。そこで仕込みをして調理してアセンブリしてプレゼンテーションもなかなか考えてあって、はいどーぞとなれば、そりゃあなた、感激します。
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前回はおとなりのジュエルバコのテーブルに座ってこちらから皿を持ってきてもらったのでよくわからなかったのですが、今回は目の前で展開する調理の仕組みがわかりました。やっぱり限度はあります。メニューは前菜っぽい小皿が5ドルとか6ドル、そして10ドル前後のラインがあって、メインとしても食べられるヴォリュームのある肉や魚介ものが20ドル前後です。値付けはものすごく良心的。ワインも35ドルくらいからと、とても安心して飲み食いできます。ここはなんといってもイーストヴィレッジ。その雰囲気を忘れないぞという気概さえ感じます。ただ、メニューの数は20種類くらいと限られる。おまけにいつも忙しそうで、カウンターながらいわゆる日本の割烹のようなインプロヴィゼーション、アドリブ、即興の妙みたいなものは難しいかもしれません。いや、どうかしら、もうすこし通って常連になったら試してみられるかもしれないけれど。

で、この日はアップステアーズの常連ですっかり仲好しになったマリアさんのお友達、テキサス・オースチンのスーザンさんが60歳の誕生日ウイークだということでNYに遊びにやってきて、それで3人でここでの会食となったわけです。この日は5コース50ドルというシェフズ・メニューを頼みました。で、そのほかにメニューの中から気になるものをピックアップして、追加注文という形。

一品目はその追加注文のトルティーヤラップです。なかにはお豆かしら? ウズラの卵も入っていて、上に載ってるのはハラピーニョの輪切りですね。一口料理です。いい感じです。
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それからコースに入りました。
最初はグリーンアスパラのグリル。周りにはアラレが付いています。カリカリパリパリ弾けます。で、下にたまっているのがチーズの泡ソースと、その中にポトンとポーチドエッグが落としてあります。で、スペインの生ハムであるセラノが切って添えてあります。それをグチャグチャと混ぜ合わせてアスパラをディップして食す。うまいっす。食感もいい。この卵とセラノの組み合わせは、ブーレイのコースでも出てきたことのある定番。こちらはアスパラ・ベーコンからの連想でもあるでしょう。
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こないだのジャンジョルジュ、さらにはじつはこの2日前の5月2日にはアップステアーズでもフレンチのほうから白アスパラガスのグリルを食べまして、アスパラ3連チャン。で、どこがいちばん美味かったかというと、写真撮ってませんが(ここにリポートもしてませんけど)アップステアーズの白アスパラが一等うまかったです。キャラメライズして、チーズがかかっていて、しかもソースが甘酸っぱくて、これはさすが素晴らしい料理でした。次がこのデギュスタシオンです。これは食感とソースのアイディアが上等です。この2つに比してジャンジョルジュはモレールマッシュルームを使っていて値段的にはいちばん高いでしょうけど、ちょっと凡庸な味だったですね。

次はコースから外れてコロッケ、クロケットですね、を食べました。中は戻した干しダラだったかなあ。下の緑はパセリのピュレーだそうです。まあまあかな、これは。
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次のこれは、思わず踊りだしてしまうほど美味かったわ。
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大中小と3種の海老のグリルですわね。どれがいちばん美味いかというと、じつはちっこいのです。もう海老の味がぎゅっと凝縮されていて、頭の部分なんか、丸ごと食したら涙が出てくるほどうまい。真ん中の大海老はモロッコ海老だったか名前を忘れましたが、肉がしっかりしていて味は穏やかで、これも違いがわかってうれしいものです。大きなのは手長海老ですね、スキャンピというやつ。これは身がほろほろです。ミソも甘い。しゃぶりつきました。ただグリルしてオイルと塩を振っただけなんですけど、参りました。料理って何なんだろうと、こういうのを食うと考え込んでしまいます。ってか、それは後の話で、食った時は昇天ですけどね。

んでもって次にでてきたのはホタテ貝。
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なんだっけ、この緑の野菜。なんかのササゲの一種みたいな食感でしたが、こんな海藻ってあったっけ? あ、思い出した、これ、samphire サンファイアというセリ科の多肉草。うーん、英語でなんとかグリーンとかいったんだけど、それを思い出せない。それにグレープトマトに火を通したのとブドウの輪切りとを加えた淡く甘いソースです。つまりトマトウォーターベースなのかな? これはちょっと甘さが一面的でまあまあだったかな。こう考えると、ホタテってかなり料理が難しいかも。東京の「カンテサンス」でもホタテは首を傾げたし。ホタテ自体が甘いから、ソースはそれと別の方角から切り込まねばならない。青みとか酸みとか。そういう意味ではこれまたブーレイのパセリのオーシャンブロスは凄いんだなあ。

そんでお肉に入ります。別注文のウズラが次に来ました。
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マリネされていてウズラの臭みが消えていて、これもなかなかよいものです。醤油とバルサミコに漬けたみたいな味です。よく見ると胡麻もくっついてるね。フェンネルのサラダも合っています。

そして料理のコースの最後4品目はロースト・リブアイの薄切りをブリオーシュのトーストの上に載せ、ホワイトチーズのソースを垂らしたもの。リブアイというのはリブロース、肩に近いロースの芯の部分。「目 eye」に似てまん丸だからこう呼びます。リブロースはいちばん肉の旨味を感じられる部位ですね。わたしはこのリブロースの芯の下の部分、ちょうどホタテの貝柱と足の関係でいうと、貝柱をアイとして、足の部分に相当する部分、なんていうんだっけ? あそこが大好き。脂が指して肉質はホロホロで。でもアイの部分もこうして食べるとじっさいジューシーで美味いっすよ、これ。うふふ。
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おまけはラム。これもうまい具合に焼けてるでしょ? キャラメリゼでっせ、この色が、はい。左のはハッシュドポテト(ジャガイモの千切りのパンケーキ焼きみたいなもん)。上にはサワークリームですね。下のソースは刷毛で塗った赤ワインのリダクションのソースです。もう腹一杯です。
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そして最後にデザート。この日はベリーのミルフィーユ仕立て。
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そんでもって、シェフがこんなにadorableなら、もう言うことはないじゃないですか。
名前はウェスリー・ジェノヴァート。じゃっかん28歳です。
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週末はいつも満杯です。平日の夜が予約を取りやすいでしょう。
さて、ウェスリー君、このカウンター席という形式がおのずから要求するであろうアドリブが可能なのかどうか、それが次の注目点ですね。

**
追記)翌週に再訪問しました。ウェスリー君、先週来たと知っているのに、シェフズ・メニューは同じ内容で出してきました。ちょっとがっかり。つまりメニュー以外にアレンジするというシステムはアメリカにはあまりないのかもしれません。これでは何度も来るわけにいきません。間口はあれど、奥がない、ということです。残念。

October 10, 2006

Degustation

2006-10-09
タパス(スペインの小皿料理)
Degustation(デギュスタシオン)
☆☆
239 E. 5th St. (bet. 2nd & 3rd Aves.)
NY., NY., 10003
TEL 212-979-1012

ひさしぶりにニューヨークでまた来ようと思うレストランに巡り会いました。
この日はブーレイのテストキッチンに用事があって出かけたのですが、そこでまずはフェラン・アドリアご一行さんと再会してなんだらかんだらとわけのわからんスペイン語で「NYで行くべき日本料理もしくはアジア料理の店」なんかを訊かれて答えに窮していたのですが、ほんと、ないんですよね、Upstairs 以外に薦められるところって。

ま、それはいいや。で、フェランたちが帰ってデイヴィッドとトーマスとぼくとで打ち合わせを始めたところに、こんどは京都「菊乃井」三代目ご主人の村田吉弘総料理長がいらして、なんと3時から6時半までみっちりとデイヴィッドと料理談義。それの通訳を務めるはめになってしまって、まあ、村田さんが講談社インターナショナルからちょうど英語版の「KAISEKI」という本を出したということもあって、それを見ながらなんだかんだの花が咲いたわけで。中でも興味深かったのは、いま日本料理の科学的な研究を行っていて、たとえば昆布のだしはいままでは冷水で一晩置いたものがおいしいとされていたんだけれど、どこぞやの大学との共同研究で、「60度で1時間」がもっともグルタミン酸が多く抽出される目安だとわかったんですって。なんか、30%も多いらしいですよ、みなさん。

で、そうした話も終わって、村田さんと講談社の内山さんがお帰りになるところで村田さんから「ちょっとやりませんか?」といわれてほいほいと付いていったのです。で、4日からNY入りしていてもうフレンチも鮨も飽きたという村田さんらが行ったのがこの店だったというわけ。(ずいぶん前口上が長かった)

ここはあのジュエルバコのジャックとラムのグレイス夫妻がそのジュエルバコの隣にオープンした姉妹店、というか、店そのものも中でつながってまして、デギュスタシオンがカウンター席16席だけだったので座れず、ジュエルバコのボックス席に陣取って(こっちのほうが結果的に楽ちんでした)、デギュスタシオンからタパスを8種類くらいかなあ、で、最後に巻物を4種類ほどジュエルバコから、というふうに、けっこうふんだんにお任せでいただきました。

このタパスがあなた、なかなかいいのはどうしてかというと、塩加減がいいんですね。NYのアメリカ人用の店にありがちなくどさ、濃さがなくて、ちゃんと繊細。訊けばシェフはスペイン生まれで15歳のときからアメリカで住んでいるというウェスリーくん(27)。若くて、最後に村田さんがあいさつに行ったら、いやいや、ちゃんとカウンターから出てきて、まあ、途中で店のひとも御大が京都の老舗料亭のビッグショットだって知ったんでしょうね、きちんと礼を尽くしてあいさつしていました。アメリカといえど、こういう世界は上下関係ってのが、っていうか、敬意の表し方というのは同じです。

さてその料理ですが、いずれも一口料理もしくはそれに類した小皿料理で、中でも感心したのはスウィートブレッド(子牛の胸腺=リードヴォー)を唐揚げみたいにしてそれをキュウリのヨーグルトソースとキュウリの千切り、香草で食わせるというもの。食感よろし、キュウリの清涼感がよろし。いやいや、べつに特に奇を衒ったものはないんですが、1つ1つが丁寧かつなんとなく工夫が施してあって、「感動」というんじゃないけど、そうですね、「感心」するんです。得心する、なるほどと思う、いちいちうなづいてしまう、そういう料理。小さなコロッケには控えめなアリオリのソース、ホタテのグリルにはピンク・グレープフルーツのきれいなソース、フォワグラのソテーもザクロのジュースをあしらったり、結果として出てくるものの味のバランスがとてもよい。村田さんとふたりで「なかなかですね」と顔を見合わせておりました。20代半ばで出てこない料理人はダメなんだってね、やっぱり。

で、その村田さんの若いころのとても興味深い話や料理界の人間像のことなども聞きました。が、まあ、それはプライヴェートなことなのでここに出すには許可がいるでしょう。ただ、料理を作っていていつも考えることは「ミッション」ってことだっておっしゃっていましたね。「メシ屋ですからね、それを通じていかにひとを幸せにするか、うれしくさせるか、それがミッションなんですよ。そのために仕事してるんです」って。

いずれにしても、ここには近々再訪して、写真を掲載しましょう。きれいなのです、料理が。
この日は、最終的に4人になって、料理は285ドル、ワインはスペインの微発泡の白が50ドルでなかなかのものが飲めました。