2007-01-21
ニューアメリカン
WD~50
料理 ☆
デザート ☆☆☆
50 Clinton St.
New York, New York
212-477-2900
いまやニューヨークで最もヒップなレストラン街となっているクリントン・ストリートにこのレストランはあります。ロウワーイーストサイド、ハウストンの東端に近い位置から南に伸びる一角です。この一角の再開発のきっかけは1999年の71 Clinton Fresh Food というレストランでした。そこを父親とともに開いたのが今回、wd~50でシェフを務めるWylie Dufresne(ワイリー・デュフレスヌ)です。wd~50はもちろんそのシェフの頭文字と住所ナンバーから来ています。2003年4月の開店だそう。デュフレスヌはいま36歳、ジャン・ジョルジュでスーシェフを務めていたといいます。うーん、わたし、ジャン・ジョルジュ、あまり(というか、正直言うとまったく)感心したことがないの。
アップステアーズの真ちゃんと2人で行ってきました。NYは寒い日が続いています。6時半の予約。店構えはなんとなくちゃち。大学祭の模擬店みたいな感じは店に入ってすぐの白木のバーやクロークがベニヤみたいに見えるからでしょうね。でもメニューはずいぶんと強気です。アペタイザーが15ドル平均、メインは30ドル。ちょっとしたグランメゾンみたい。で、やっぱりここでも105ドルのテイスティングメニューを頼みました。それに65ドルのワイン・ペアリングです。
で、結果は、というか経過は、料理はほとんどディフォーメイション(変形)とディコンストラクション(脱構築)の「エル・ブリ」スタイルです。やっぱりフェランの革命は大きいんでしょう。でも、こういうスタイルを一度知ってしまった人たちに、果たして最初の「ええ? 何、これ? どうしてこうなるの? うわぁ、すごい、面白い!」っていう感動は、どうなんでしょう、再現されるのでしょうか。どっちかっていうと、ああ、頑張ってるなあ、ってなってしまうんですよね、私の場合。で、最終的には、それで美味いのかどうか、ということなんですよね、やっぱり。それに、たとえフェランがやっていないこと、やったことないこと、知りもしないことでも、こういうのって、あ、エル・ブリだなあって思われちゃうでしょ。それ、かわいそうですよね。たとえば英国バークシャーにあるヘストン・ブルメンタールの「ファット・ダック」。ゴーミヨーで19点、ミシュランで3☆というすごいレストランだけど、フェランがいなかったら、もっとすごいと思われてたろうなあと。
ま、御託を並べてないでとっとと食い始めましょうか。まあ、すごいってほどじゃないけど、まあまあ美味いですよ。まずくはない。でもね、あとで書きますが、ここはデザート。ペイストリー・シェフのアレックス・スッテューパック(Alex Stupak)ってのが、これは私、参りました。素晴らしい。26歳です。うーむ。
ということで、最初はどかんと「フラットブレッド」が配置されます。これ、どっちかというとインドのぱりぱりパンに似てるものすごく薄いクラッカーですね。
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で、ファーストコースは烏賊ヌードルですって。その上の褐色のヌードルはオリーブのジュースを固めた麺ですね。そこにパラパラとオレンジ・ソイル(乾燥オレンジの粉末です)がかかっていて、向こう側の緑のはアルグラ(ルッコラ)のペーストと呼んでます。烏賊はスクイッド、ちっちゃなヤリイカですね、それを湯がいて千切りにした。うーん、ヌードルには日本人は驚かないなあ。これではアルグラのペーストの味が際立って緑っぽくておいしかった。アルグラとオレンジって合いますからね。でもそれだけかなあ。
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2品目は、これ、目玉焼き(サニーサイド・アップ)。
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笑っちゃうけど、おいしいです。何かというと黄身は人参ジュースになんかの凝固剤を入れて丸く凍らせる。で、室温に戻すと表面だけが固まっていて形をホールドする。下の白身はココナッツジュース。それに上手い具合に寒天みたいなのを混ぜて、これ、ほんと白身の食感にそっくり。上にはカルダモン塩とオリーブオイルが掛かっています。人参ジュースがおいしいの。でココナッツの味と合わさって、いいコンビネーションです。これは買いですね。
3品目は、これ、わからんでしょ?
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料理名は「フォワグラ・イン・ザ・ラウンド」、つまり球形のフォワグラ。この薄い肌色の球体がフォワグラのペーストをメソセルロースで固めたやつね。黒っぽいボールはちっちゃな麦チョコ。緑はクレソンのピュレ。オレンジ色のちっちゃな粒は、あられです。食感および塩味の加味用ですかね。で、底にはバルサミコをフリーズドライして粉にして丸くしたのがちょっと入ってる。つまりフォワグラのチョコ風味バルサミック和え、って感じね。でも、よくわからん。フォワグラの味も薄くて、最初にちょっと感じるだけで、よくわからん。なんだか、何を言いたいんだか、わからん。まずくはないが、うまくもない。ふうん、って感じ。
次。
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向こう側は冷たいカニ肉のサラダロール、それにミントの千切りが載ってる。手前はあれよ、寿司屋のガリを天ぷらにしたやつ、下に刷毛で塗ってるのは発酵ブラックビーンのペーストね。豆鼓かね。もちょっとまろやかな味をしてたからブラジルの黒豆かしら。で、どんな味かって、想像するとおりの味ですよ。黒豆ペースト、ちょっと醤油っぽくていい感じ。でもそれだけ。
あ、真ちゃんはカニとエビ類がだめなんで、なんだっけ、スモークした鰻にブラッドオレンジのゼストが載って白い千切りは黒蕪(皮だけ黒いので切ったら白、何の意味があるのか?)。で、おかしいのが黄土色のゴミみたいなの、これ、鶏皮のペーストなんだってさ。味、けっこう強くてしょっぱかったです。
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次は5品目で、これ、ちゃんとした一品料理のたたずまいでした。
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スモークタンみたいな、ピクルドタンと言ってますがね、タンのハムみたいな感じのスライス。やわらかくて優しい味です。で、キューブはマヨネーズを揚げたんだって。これも凍らせて成形してパン粉つけて揚げたんだろうね。黒っぽい刷毛目はトマトのピュレにモラーシス(糖蜜)を混ぜたもん。モラーシスの味強すぎ。これはチョコレートとメキシコの乾燥ポブラノの「アンチョ」チリなんかを混ぜたほうが合うような気がしますね。左の端にはね、手前がロメインレタスの細かい賽の目切り。向うがレッドオニオンの乾燥粉末ね。
次はミソスープ、セサミヌードル、って言ってますが、味噌ではなくてお澄ましの濃いのですね。
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ジャパニーズスープをみんなミソスープと呼んでしまっているという、初歩的な誤解です。かわいいもんですが。で、胡麻ヌードルってのはこれ、プラスチック容器に入っていて、ちゅーっと押すとにゅるにゅると出てきて、スープの高温で固まるという仕組み。スープ、コンソメみたいに濃厚で悪くなかったです。だ〜か〜ら〜、ヌードルにはわれわれ、驚かないんだってば。
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次のはラングスティーン、つまり手長エビね。隠れてて分らんだろうけど、このエビ、おそらく50度くらいで加熱処理してて食感が生っぽくて甘くて透き通ってて、おいしい。べつに真っ赤なハイビスカスペーパーなるものは甘酸っぱくアクセントをつけるもんだろうけど、なんかもっと違うもののほうがいいなあ。エンダイブも三角に切って湯通しして冷やしてエビの色と食感に合わせてます。でね、下に敷いてあるソースみたいなのはソースじゃなくて、ポップコーンのピュレ。よくまあ考えるわね。ホント、ポップコーンの味がする。
真ちゃんはエビがだめだから、タルボットです。量がほんのちょっぴり。焼いてあって三角に切って、写真では右奥に重ねてあるのがそう。
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真ん中のオレンジはコーヒーとサフランのドレッシング、緑のはネギ風味のブルグァ(Bulger=小麦を半ゆでにし砕いて乾燥させたもの)。白い棒状のはサルシフィ(西洋牛蒡ですね)。ここね、さっきから言ってますが、野菜の料理の仕方が上手い。ちゃんと野菜の味がするのさ。それは買い。
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で、料理の最後はスクワブ(雛鳩)の胸肉のビーツまぶしロースト=右端。白いのはココナッツ・ペブル(小石)と。それに混じってる赤い塊はカタバミだっていってた。うーん、微妙な味でした。
というわけで、面白いっちゃ面白い。がんばってるっちゃがんばってる。だから☆あげるのにやぶさかではない。でも、ここはテイスティングより、アラカルトでちゃんと食べた方がいいのかもなあ、って思いました。でもふとこのロケーションに思い及ぶと、ここクリントン・ストリートは圧倒的に若者たち(20〜30歳代?)が多いんだ。するってえと、やっぱりこういうの、そういう人たちにはすごく面白いし刺激的なんだろうなあと思うのでもあります。店もそういう作りだしね。
とはいえ、しかし!
しかし!
次に出てきたデザートで私はぶっ飛びました。
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これ、真ん中の棒状のは柚子のカード(チーズみたいに牛乳を凝固させたもの)で、緑色の粉末やクリームはピスタチオなんだけど、驚いたのはこの白い泡です。何の味がしたと思います?
口に含んだとたん、え、これ、あれだよ、あれ、クリスマスのときのクリスマスツリーの匂いだよ。あの、樹脂の匂い。そんなの、食べるの? 聞いたら、spruce(トウヒ)風味のヨーグルトだって。ひー。
いや、驚いたのは「そんなもの」という意味だけではなく、柚子のカードとピスタチオと、そうしてそこにやや苦みのある木の香りを混ぜ込んで、出来上がった全体の味の、なんともいえぬほど刺激的かつ控えめな雄弁さ。これはすごい。甘さも絶妙。揮発性の樹脂のもたらす効果の、いやはや、参りましたね。寡聞にして、私は木を使った食べ物をこれまで知りませんでした。あ、シナモンは木といや木だけど……。あと、木の実もそうか。でも、いわんとすること、わかるでしょ?
続くコーヒーケーキ、リコッタの泡、マラスキーノチェリーのピュレ、チコリのアイスクリームの盛り合わせも、あーた、いいじゃありませんか。
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最後は生チョコの捻れたのにアヴォカドのピュレ、ライムのソルベ、そこにすっと一直線でリコリスのシロップが流れています。
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組み合わせの妙。おいしい。素晴らしい!
このアレックス・ステューパック、メニューを見たら他に「松の木」や「サッサフラス(米国のクスノキ)」のエキスを使ったり、梅干しも使ってるなあ。で、デザートの3コースメニューが25ドル、5コースが35ドルって! それだけを食いにここに来る価値あり。私はそのアレックスのデザートのために再訪いたします!(あらら、ウェブサイトの写真見たらかわいいじゃないすか。この日は日曜でいなかったのだ)。こいつは天才です。
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あ、ワインを書くの忘れた。ペアリング、あまり合ってないのもありましたが、おいしかったのはホワイトバーガンディーです。Pouilly-Fuisse のVV "La Croix" Robert-Denogent 2004。キャラメル、バター、スモークの風味が程よかった。あと、スクワブと一緒に出されたオーストリアのZweigelt Heinrich 2003もよかったです。私ら結構飲んだんで、65ドルの元は充分取りましたね。はは。