2003/02「オオカミ少年とオオカミと」
米国に住む私たちは2月10日、政府から最低3日分の食料や水、医薬品を備蓄するよう勧告された。テロなどの攻撃があった際には自宅の一室に集まって安全を確保するようにという。
窓を覆うシートやすき間テープ、ラジオも用意する。生物・化学兵器攻撃の際の「生き残り法」も学習しなさい、とのお達しだ。こういうのはまったく困る。いったい何回目の“警告”だろう。
時を前後してテロ警戒レベルも「黄」から「高度の危険」を意味する「オレンジ」に引き上げられた。これも困る。どういう証拠があるのかの理由も開示されない。したがって「単なるオオカミ少年だ」との批判ものれんに腕押しの空しさがつきまとう。
よく分からないのは、これらがアルカイダやオサマ・ビンラーデンの関連で出ているのか、それとも対イラク戦の開戦間近の気運から生じているのか、ブッシュ政権がそれを区別しない点だ。
かくして米国民はビンラーデンとイラクの脅威を一緒くたに受け取るふうになる。対イラク戦やむなしの雰囲気のほとんどは米政府の持ち出したそういう環境から生まれている。
だから対イラク攻撃が必要だという理由を訊いても、ほとんどの米国民は正確に答えられない。「対テロ戦の一環だ」と言うのが関の山。だが対イラク戦の大義名分は「大量破壊兵器を廃棄するという国連決議の不履行」容疑なのである。
しかし、それは戦争をふっかけるほどの理由になるのか?。そうならば核兵器を事実上所有しているインドやパキスタンにも先制攻撃を行ってよいのか?。明らかにフランス、ドイツ、ロシア、中国はそう思っていない。大量破壊兵器なら彼らも持っている。
だいたい、今回のイラク攻撃には前回のクウェート侵攻のような明確な理由が見えないのだ。このため独仏露は対イラク攻撃を回避するために国連査察の強化による武装解除の方法を探る共同提案を行って、開戦やむなしとの米国主導の環境作りに真っ向から違う風を当てはじめた。
ブッシュもラムズフェルドもこれでかなり機嫌が悪い。そうして「3日間分の備蓄勧告」である。いつもこういうタイミングだ。仕組んでいるのだとしたら大した政府である。
もちろんこうした批判は仮定の上にしか成り立たない。オオカミが来なければ警告を出したおかげで回避されたのだと言える。オオカミが来ればほら見たことかと相成る。どちらに転んでもオオカミ少年はやはり正しかったという仕組み。
こういうのはまったく困る。困りながらも「古い欧州」たちが非戦に向けて行動している。はて、ところで日本政府はいったいどこにいるのだろう。