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2009年4月日本公開映画『ミルク』〜Harvey Milkとこの時代

ハーヴィー・ミルクの名前くらいは聞いたことがあるかもしれません。
でも、ないかもしれません。
むかし、というか、いまも、「ハーヴェイ・ミルク」という書き方の方がなじみがあるかもしれません。
知識の有無を含めて、その辺がきっと日本の「状況」だと思います。

ダスティン・ブラックという若い脚本家が、このハーヴィー・ミルクの人生に感動してこれを史実に忠実な映画として再現してみんなに見せたいと思いました。その脚本を読んでガス・ヴァン・サントという結構とんがった映画ばかりを作っている監督が動き、ショーン・ペンを主演にして映画制作が始まりました。

その舞台裏、完成にいたるまでを、アメリカのプロダクションが説明しています。それは英語ですけど、それを注釈とか補足とかを含めながら、日本語でここでご紹介します。


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【イントロダクション】

史実に忠実であることとドラマの醍醐味とは共存できるのか?
──監督ガス・ヴァン・サントと主演ショーン・ペンがその答えとして映画『ミルク』を用意した。


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70年代サンフランシスコのリベラルな空気の匂いとともに、映画『ミルク』は現代同性愛者解放運動の伝説の人物ハーヴィー・ミルクを生き生きと甦らせた。この映画は、時代の事実である。同時に、いかなる時代にあっても普遍的な、愛と勇気と希望の物語だ。

いまでは洒落たカフェやレストランが立ち並び、世界中のゲイ・コミュニティのメッカとして知られるサンフランシスコの一角──その地区の通りの名を冠して、あらんかぎりの尊敬と親愛を込めながら「カストロ通りの市長──Mayor of Castro Street」と呼ばれた男がいる。ハーヴィー・ミルク。ゲイに対する差別と偏見渦巻く70年代にいち早くゲイ・コミュニティの“声”となり、同性愛者のみならず高齢者から労働組合員まで、あらゆるマイノリティの権利のために立ち上がったミルクは確かにあの時代の1つの象徴だった。彼の政治家としての存在の系譜は時代と分野を超えて深く静かに根を張り、その1本は現在のバラク・オバマ大統領にもたどり着いているだろう。

地元コミュ二ティを代表して政治にかかわろうと3度の落選を経験するも、1977年末、ミルクは念願のサンフランシスコ市政執行委員に選出される。旺盛な行動力と若者たちをも引き込む話力で大衆政治家の道を進むミルクだったが、任期1年に届かぬうち志なかばで凶弾に倒れてしまう。殺害犯は元同僚委員のダン・ホワイト。突然の辞職表明と辞職撤回表明、そしてその拒絶を受けての混乱の中で、モスコーニ市長をも暗殺した直後の犯行だった。

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ハーヴィー・ミルクのそんな最後の波乱の8年間の映画化。ガス・ヴァン・サントはカンヌ国際映画祭でパルム・ドールと監督賞を同時受賞した『エレファント』(03年)だけでなく、『マイ・プライベート・アイダホ』(91年)やアカデミー監督賞候補の『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97年)など、時代の中で揺れ動く若者たちの繊細な心を描いたら右に出る者のいない異才。15年以上前の90年代初めからすでにハーヴィー・ミルクの人生の映画化企画を練っていたという。そのためか映画はカリスマ政治家を取り巻く歴史的事実の圧倒的な迫力を背景に、1人の繊細かつ大胆なゲイ男性の人生そのものを見事にフィルムに焼きつけた。

主人公ミルクには、まるでミルク本人が乗り移ったかのような演技を見せつけるオスカー俳優ショーン・ペン。つねに新たな挑戦を続けるペンは、ここでも指先1つ1つまで、肘の曲げ方、声の震えの1つ1つまでがミルクだ。ミルクの恋人だったスコット役には、この映画で確実に演技派の仲間入りをしたジェームズ・フランコ。また、エミール・ハーシュ、ジェフ・ブローリン、ディエゴ・ルナなど気鋭の若手/個性派俳優が脇をかため、現代美術家のジェフ・クーンズも出演するなど、ガス・ヴァン・サントらしい配役となった。映画のエンドロールでは実在の主要登場人物たち本人が写真で紹介されるが、彼らを演じた俳優たちがペンだけでなくいずれも驚くほどソックリなのは一興だ。

脚本はミルク暗殺当時まだ4歳だった気鋭の若手ダスティン・ランス・ブラック。彼は保守的なクリスチャンであるモルモン教の家庭に育ち、自身もゲイであることで「自分はいつか地獄に堕ちる」と思いつづけてきた。そんな彼もやがて成長してからハーヴィー・ミルクという存在を知り、「希望」を語る彼の演説を聴いてやっと人生を救われたのだという。その“恩”を返すべく、彼はミルクに関して3年間のリサーチとインタビューの末にこの脚本を完成させ、それがガス・ヴァン・サントの目に留まって今回の映画化へと結びついたのだった。

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ガス・ヴァン・サント作品ではすでに常連の撮影監督ハリー・サヴィデスの指揮の下、ミルクのカメラ店=選挙事務所のあるカストロ地区などはすべて実際のサンフランシスコの現地でロケが行われた。当時の景観を再現すべく様々な時代考証が徹底され、撮影はミルクを知る多くの地元関係者の協力を得て、追悼マーチなどにもゲイやストレートを問わず数多の近隣住民たちがボランティアで参加したという。映画はニューヨーク映画批評家協会賞で作品賞、主演男優賞、助演男優賞の主要3賞を独占。ロサンゼルス映画批評家教会賞でも主演男優賞を獲得。そして09年アカデミー賞では「スラムドッグ・ミリオネア」が各賞ほぼ独占の席巻の中、しっかりと脚本賞、主演男優賞を確保した。

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