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2008-01米国大統領選挙を学ぶ

◎ヒラリーかオバマか? 民主党か共和党か? いやその前に、いまさら訊けないゲイ視点08年大統領選基礎講座

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 4年前あるいは8年前のアメリカの大統領選挙のとき以来、私は、この共和党のブッシュ政権が終わったら必ず次は民主党の大統領になって同性婚問題もよい方向に進展を見せるようになるだろうといろいろと書いたり言ったりしていました。その時がいま来ているのですが、ところがどうも今回の選挙戦、前回、前々回と違ってあまりゲイのことがテーマにならないで進んでいるのです。
 ではゲイの問題は片付いているのかというとそうではありません。もう何年も期待されている連邦レベルでの反ヘイトクライム(憎悪犯罪)法と、性的指向による就職差別禁止法の2つの法案が、民主党が主導権を握る連邦下院でも通っていないのです。その間にもフロリダ州ではまた同性婚を禁止する州民投票が行われそうですし、アーカンソー州ではゲイが養子をもらったりするのを禁じる州法案が提出されています。
 日本の新聞やテレビでも大きく報道されている米国大統領選挙というのを、ゲイの視点からすこしおさらいしてみましょう。

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 アメリカはだいたい共和党と民主党の二大政党制で両党が交代で政権を担っています。この2党はどう違うのか? 共和党は国民の自助努力を奨励し、政治が経済や個人生活にあまり介入しない「小さな政府」を目指しています。対して民主党は政治が格差の問題や人権問題などにも積極的に関与し福祉や平等などを実現していく。これだといろんなことで予算も必要だし、民主党政権は概して「大きな政府」になります。
 ゲイの問題はではどちらが積極的かというと、これは人権格差の問題だし平等の問題です。つまり民主党が積極的に正そうとしている不平等な現実なのです。
 対して共和党は、例えば銃を持つ権利というのは政府に云々言われたくない個人の自由と権利の問題だと思っているし、ふだんの生活にしても個々人の信条は地域ごとコミュニティごとで違うし、そういうことに連邦政府が口出しすべきじゃないと思っています。ならばゲイのことだって放っておいていいじゃないか、となりますが、ミソは「地域ごとコミュニティごと」の信条を大事にする、という基盤に、アメリカの隅々にまで行き渡っている「教会」というものがある点なのですね。つまりそれは教会コミュニティに任せればよい、ということであって、そういう意味でのみ、政府が口を挟むな、ということになります。ですので共和党の多くの支持者にとってはゲイの問題は教会が片を付けるべき「罪」の問題になりがちなのです。

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 ですので一般的に、民主党は親ゲイで、共和党は反ゲイです。
 しかし共和党の内部にもLGBTの党員で作る団体があります。「ログキャビン・リパブリカンズ(丸太小屋の共和党員)」という名称のグループです。
 どうしてゲイなのに反ゲイの共和党なのか? それは、政治はべつに性的少数者の問題だけを扱っているものではないからです。ゲイであっても、米国社会は小さな政府で運営されるべきだという政治信条を持っている人はたくさんいます。人権における信念よりも、そうした経済政策や外交政策の理念を重要視すれば、共和党支持になります。でもゲイなので、ゲイ差別のこともどうにかしてくれと党内部で「ログキャビン・リパブリカンズ」に加わり、その方面でも働きかけをしている人はいる。そういうことです。
 さて、いま大統領選挙で行われているのは、この民主、共和両党がそれぞれ大統領候補をだれにしようかと、その党内で州ごとに投票を行っている段階です。これを候補としての「指名争い」といっています。まだ両党同士の戦いではなく、党内部での戦いなのです。

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 民主党は上院議員のヒラリー・クリントンとバラク・オバマが自分こそが指名されようと争っている。対して共和党は1月末時点でジョン・マケイン上院議員とミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事、そしてマイク・ハッカビー前アーカンソー州知事が争っていました。

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 クリントンとオバマは、民主党なのでゲイの問題に関してはまあ進歩的です。同性間カップルにも結婚と同じ法的権利を認めるシビルユニオン制には賛成。とはいえ2人とも「結婚」という言葉を使うことには反対しています。これはそういうのを嫌う全米の根強い保守派を刺激したくないという政治的な思惑もあるでしょう。「軍隊でゲイであることを訊かない、言わない」というドント・アスク・ドント・テルの原則もともに撤廃を明言しています。HRCというゲイの人権団体の点数付けではクリントンが92点、オバマが89点と、似たような高得点。2人ともゲイの集会やパレードにもひんぱんに顔を出しています。
 対して共和党は、ロムニーはモルモン教徒でハッカビーはバプティスト教会の牧師と、ともに宗教右派を支持基盤に持っているのでゲイのことを受け入れていません。ただし、マケインは中道穏健派と呼ばれる位置にいて、ブッシュが憲法修正で同性婚を禁止しようという動きに出た04年に「そんなことで憲法を使うべきではない」と上院で公然と反対票を投じた人です。そういうこともあって他候補よりはマシだとNYタイムズやLAタイムズも共和党ではマケイン支持を表明しました。
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 ところがこの選挙戦序盤では、ゲイの問題は討論会や会見でも司会や報道陣から質問されない限り話題に出てこないのです。なぜか?
 それは現在アメリカがサブプライム危機からイラク撤兵、地球温暖化に健康保険問題と、それどころではない火急の課題を抱えてのっぴきならない状態にあるからです。選挙ではどうしたって関係する人間の多いテーマから重要視される。これらのすべてはもちろんLGBTを含むすべてのアメリカ人の大問題なのですから。対して同性婚や就職差別、憎悪犯罪、ゲイの従軍問題などは、いかに切実でも当事者はやはりゲイというローカルな部分に限定される。
 では、今回の選挙はゲイにとっては逆コースなのか? いやいや、アメリカのゲイたちがそんな状態で甘んじているはずはありません。
 じつは大統領候補は各州の代議員を選ぶという間接選挙なのですが、この代議員というのが両党の政治家の卵たちなのです。民主党の場合、全米で4049人の代議員が登録されるのですが、前回04年選挙ではそのうちLGBTの代議員の数が282人だった。それを今年は320人以上に増やしたいと民主党内の草の根ゲイ・グループが運動している。彼らがそのまま政治に関わりつづけたら、それは今後のLGBTの政治運動のインフラとして強大な土台になるはずなのです。
 ですので、また言いましょう。次の大統領、あるいはその次の大統領の時代で、アメリカはきっと目に見えて変わるはずなのです。
(了)

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