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January 19, 2010

2008-07マシュー・ミッチャムという事件

◎弱冠20歳のゲイのダイビング選手がオーストラリアから北京五輪に出場、金メダルをねらっている。スゲエ〜!

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 この号が出るころは北京オリンピックも終盤です。マシュー・ミッチャムはオーストラリアの飛び込みの選手です。弱冠20歳ながらこれまでの成績では世界3位の実力者。3mと10mで金をねらいます。

 ここまで来る道は大変でした。まあ五輪選手はみんなそうなんでしょうけれど、彼は鬱病になって心身ともに燃え尽き、10代で一時引退しました。しかしそれから9カ月後に復帰して見事この北京五輪に姿を見せたのです──彼のそんな苦闘の2年間をいっしょに付き添って歩いたのが彼のパートナー、ラクランでした。彼にもいっしょに北京に来てもらいたいと思ったマシューは、薬や洗剤、美容製品などで有名な世界的企業ジョンソン&ジョンソンのスポーツ選手ファミリー支援制度に応募して、彼を家族として北京に呼び寄せる5千ドルの旅費の提供を受けることになりました。

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 マシューはオーストラリアで初のオープンリー・ゲイの五輪選手です。周囲には以前からカムアウトしていましたが、この5月、五輪出場選手の紹介を続けていたシドニー・モーニング・ヘラルド紙のインタビューでメディアの報じるところとなりました。記者が、いま誰といっしょに生活しているのかと訊いたののです。家族とか、一人暮らしとか、そういう答えを予想していたのでしょうが、マシューはそのとき「ラクラン」の名前を出しました。「べつにメディア的にカムアウトしようなんて思っていたわけじゃなくて、質問されたから答えただけ」と彼は後にアドヴォケット誌のフォローアップ記事で話しています。

 なんといってもオーストラリア人にとって水上スポーツ選手は日本だと野球とかサッカーとか相撲とか(ちょっと違うか?)に匹敵するスポーツ界のヒーローたちです。ヘラルドの記事の後に取材申し込みも殺到しました。そのせいで午前中を練習ではなくメディア向けに使わなくてはいけなかったほどです。

 でも、彼自身にあまり気負いはない。「北京ではすごくよくやったオーストラリアの選手として記憶されたい」と言います。「優秀なスポーツのヒーローとホモセクシュアリティの結びつきがニュースだと思っているのは、知らない人だけだから」と。

 じっさい、彼の周囲では同じ飛び込み選手の仲間うちでも彼の性的指向はたいした問題ではないのです。「ぼくがビッグ・ホモであることは自分でもジョークにしてるしね、問題じゃないんだ。他のみんなだって同じ」。もう1つ、ダイビングはその芸術性と優美さとで「もともとカムアウトしやすい分野だと思う。ラグビーとかだとマッチョじゃなくちゃならないから」

 同じクラブのチームメートにもゲイはいると言います。また世界の競争相手の中にも。「まあ、ぼくはメディアの前で『こんちは、ぼくはゲイです!』ってやったってだけ。べつに恐がることもないし」

 そういえば84年のロサンゼルスと88年のソウル五輪で連続金メダルを獲得した飛び込みのグレッグ・ルゲイナス(48)もその後に公的にカムアウトしましたね。前回04年のアテネ五輪ではオランダの銀メダル水泳選手ヨハン・ケンクイスがオープンリー・ゲイでした。

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 マシューは少年時代はトランポリンをやっていました。ダイビングを始めたのは11歳のときです。遊びで飛び込んでいた彼をコーチが見初めたのです。ただし、厳しい練習のせいで16歳のときにはもう体がぼろぼろになってしまいました。腰の骨は疲労骨折し、両手首には13もの結節腫(嚢胞性の腫れ)が見つかりました。おまけに高校3年生になると厳しい受験戦争です。加えて朝5時のワークアウト。それは彼の心をも打ち砕きました。そこでいっさいの練習をやめたのです。

 6カ月間、彼はオリンピックを目指す者としては諦めざるを得なかったことをやることにしました。つまり、友だちと付き合ったりいっしょにバーに行ったり……ラクランと出逢ったのもそのころでした(彼についてはファーストネーム以外ほとんど明かしていません。ま、プライバシーですからね)。

 そうするうちに、やがてマシューはふたたび競技を始めたくなったのです。昨年初め、彼はラクランとともにシドニーに引っ越し、ダイビングの練習を再開しました。そうして北京への切符を手に入れた。才能と努力の結果です。

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 ルゲイナスと比べたくなるのはしょうがないでしょう。でも、マシューはあのときのルゲイナスよりもすでにはるかに知名度は高い。だいたいこうやって日本のゲイ雑誌のコラムでも取り上げられているくらいですから。自分の国以外のことをなにも知らないアメリカ人(すごい偏見)ですら、自分の国の北京出場ダイバーの名前は知らないけれどマシュー・ミッチャムのことは知っていたりします。もちろんゲイだとカムアウトしたせいでもあるでしょうが、まだ20歳の彼への応援はその実力からしてもこれからきっと大きく広がるはずです。

 じつは20歳というのはとても若い。飛び込み選手のピークは肉体的にも精神的にもふつうは20代半ばなのです。つまり、故障でもしないかぎり彼は北京の次の12年のロンドン五輪にも出てくるはずです。そのときですらまだ24歳なのですから。あるいは次の28歳のときの五輪にさえも。

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 北京にはラクランの他にお母さんも一緒に行くそうです。彼女の旅費はシドニーのゲイとレズビアンのコミュニティが募金を集めて工面するそうです。「ゲイコミュニティの一員であることは、ぼくにとってものすごく誇らしいことだ」と彼は言います。

 日本でもこないだ、「ダイブ!」という映画がありましたよね。私も6月に帰国したときに見ました。なんだかストイックで、きれいな男の子の俳優たちが裸になっているのにぜんぜんエッチに見えない映画でしたけれど、ダイビング競技の勉強にはなりました。あまり派手な競技ではないですが、日本でも中継されるでしょうか? そのとき、もしマシューがメダルを取ったら、日本のマスメディアは彼をどう紹介するのでしょうか。あまり期待せずに見守ってみましょう。
(了)

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